玉城和美の描き絵空間

琳派の元禄文化「かきえ」を令和へ繋ぐ絵師の活動日誌

ロングバケーション 金比羅

旅のメインイベントは、ずっと観に行きたかった金比羅歌舞伎。日本最古の芝居小屋、金丸座で二週間だけ開かれる、四国路に春を告げる風物詩である。記念館、文化財であるだけではなく、芝居が復活して今年で30回目の記念公演。地元ボランティアの力も借りて、毎年上演されてきたことがすごいと思う。
かがんでくぐり戸から入ると、客席全体が桟敷で、升席になっている。花道は二本。照明はなく、二階三階の灯かり取りの窓をお芝居に合わせて人力で開けたり閉めたりして調整する仕組みだ。客席も舞台も狭くて役者の吐息や体温まで感じることができる。
歌舞伎通のお客様に頼んで取って頂いた席は、なんと「いの壱番」最前列上手のプラチナチケットだ。よく「何はともあれ、いの一番にさせていただきます。」というが、その意味が初めてわかった。主演は染五郎、相方ヒロインは壱太郎。美しい若手が体当たりする演目は「女殺し油の地獄」4幕5場の通し狂言で、今は亡き勘三郎が演じたのを15年前に観た事がある、私の好きな近松門左衛門のお芝居だ。
描き絵の小袖を着て座っていると、まるで江戸時代にタイムスリップした様な錯覚を起こす。当時の庶民のようにリラックスしつつも、最初から最後まで全神経を集中して見物できた気がする。描きたかった真髄を感じたのか、血糊を浴びながら、初めて涙が流れた。

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